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  老樹名木詳細
 
麻生原の金木犀(あそうばるのきんもくせい)


■鎌倉時代からこの地域を見守ってきた、日本一のモクセイ
 麻生原の金木犀は観音堂のすぐ横に、堂を覆うようにそびえています。大きな樹に育つクスノキやイチョウやスギのような威圧感はありませんが、樹齢800年近くといいますから、鎌倉時代の始めごろから生きていることになります。威圧感は無いといいましたが、公園などに植栽されているモクセイ類に較べれば桁違いの大きさで、見れば見るほど積み重ねられた年輪の重さを感じます。
 昭和9年12月28日に国の天然記念物に指定されました。このときには熊本県内で4件も同時に指定され、大正年間から積み重ねられてきた全県的な老樹名木調査の成果と、交通機関が発達してなかった時代でほとんどが徒歩で行う調査の苦労が大きく実を結んだのです。同年に新聞社が集計した調査では、この樹がモクセイ類としては日本一の大きさと認定されました。20年ほど前の台風で大枝を折られるまでは、樹高20メートル以上で枝は四方に10メートル以上も伸び、低く伸びた枝にも小さいけれども香り高い花が咲き、観音堂がたくさんの花に埋め尽くされるようでした。この地域のわらべ歌に「花の麻生原、御所どころ」とあるように、観音堂が花と香に完全に包まれたのです。
 緑川を見下ろす台地の縁にあって多数の花を咲かせるので、香は風に乗り四方八方はるか遠くまで運ばれます。対岸1キロメートルの糸田(いとだ)の集落まで薫るそうです。そのため、昔から周辺の町村から訪れる人が多く、日本一の巨樹と知って遠く山口・福岡・鹿児島あたりからも足を運ぶ人もいて、その数は花の時期だけでも3000人にも及びます。この樹を地区の宝であり誇りだと考えている麻生原地区の人たちは、交代で訪問者をお客さんとして迎え、煮しめや漬物を振る舞います。土曜日や日曜日には子どもたちがお茶を出すなどの手伝いをしているのも微笑ましい情景です。
 この樹も平成3年(1991)の台風19号で直径20センチメートルほどの大枝が5本も折れ、折れたところから新芽が出て回復してきたのですが、重ねて平成11年(1999)の台風18号でまた枝が何本も折れ、葉も落ちて衰弱し花も最盛期の3割くらいしか咲かなくなってしまいました。それで、枝葉の治療よりも根本問題である根の健康を取り戻すことが大切と、町は根元を広く耕して土壌改良や排水をよくする工事などを行い、養生につとめてきました。
 地域住民も、先祖代々自分たちの生活を見守り続けてきた、地域の守り神でもあるこの樹の容態を心配しながら毎日注意深く見守り看護を続けています。地区内の道は狭いのですが、最近50メートルほど離れた広い道沿いに駐車場が整備され、訪問しやすくなっています。以前より花の密度は減少していますが、巨樹ですから咲いている花の数はたくさんあります。花がもう甘い香りを漂わせ始めていますから、この機会に訪れて花だけでなく樹を大切にしている地域の人々の心にも触れてください。

■麻生原の金木犀はキンモクセイではない
 いささかショッキングなタイトルをつけましたが、庭園などで普通に栽培されているモクセイ類にはキンモクセイ・ギンモクセイ・ウスギモクセイの3種類があり、正確にいうとここの樹はキンモクセイではないのです。この3種類はいずれも常緑の小高木で似ていますし、芳香の強い小さい花が群れて咲く木なので、花の色や形に注意することよりも香り高く咲いたことで開花に気づいても、「木犀が咲いた」と季節を意識するだけで種類の区別までは考えないことが多いのです。
 しかし、この3種は花を見れば簡単に区別できますから、今年は木犀の香に気づいたら花を確かめてみてください。まず、キンモクセイという名前から黄金のような黄色の花を考えるのが間違いの始まりで、キンモクセイは漢名(中国の古くからの正式名称)が丹桂であるように、黄赤色の花が咲くモクセイなのです。わかりやすく言えば、熟した蜜柑(みかん)の色です。また、キンモクセイと白い花が咲くギンモクセイは中国原産の樹木で、雄株だけが渡来しているので実が稔ることはありません。
 この外国渡来の金・銀二つの木犀に対して、熊本に多かったのがウスギモクセイです。和名は薄黄色の花が咲く木犀の意味で花の色はレモン色、蜜柑色で赤みの強いキンモクセイの花とは簡単に区別できます。ウスギモクセイは九州南部に自生し熊本では古い時代から各家庭に普通に植栽され、大きく育った樹も各地にあります。そして、黄色いレモン色を金色と考えて「金木犀」と呼び慣わしていました。この麻生原の金木犀も昔から金木犀と呼んできたもので、それがそのまま天然記念物の指定名称になったのです。
 しかし、その後モクセイ類が詳しく研究されて3種類に区別することになり、キンモクセイの名は中国原産のものだけに限定して使い、もともと九州に自生していたものは区別してウスギモクセイと呼ぶことになりました。植物の和名と種類は1:1の対応をするのが原則ですから、同じ名前を何種類もの植物に使ったり、同じ植物にいくつもの名前を使ったりするのは、学問的には正しくないことだからです。和名を正しく使うという意味からすれば、ここ麻生原の樹も「麻生原のウスギモクセイ」と呼ばなくては間違いになります。しかし、和名の変更が必要になる遥か昔から呼ばれていた「麻生原の金木犀」の名は、個人の名前と同じようにこの樹についている名前ですから、種類を限定する和名「キンモクセイ」を使わないで「金木犀」と漢字で書き、木の種類は正確にいえば「ウスギモクセイ」と説明することになっているのです。
 最後に、この秋に木犀の香に気づいたら花を観察し、蜜柑色ならキンモクセイ、白い色ならギンモクセイ、レモン色ならウスギモクセイと確かめてみてください。
 近くには、上益城郡御船町指定の天然記念物「樹齢300年の長生(ながばえ)の石櫧(いちいがし)」、下益城郡城南町隈庄の国指定天然記念物「樹齢600年以上の下田の銀杏」、美里町指定の天然記念物「樹齢300年の椿の黐(もちのき)」などがあります。


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