■ 加藤清正の力も及ばなかった船繋ぎの樟
小川神社の石段を登った左側に根を張った県下有数の巨樹です。地上1メートルほどで二つに分かれ、大きく高く成長した双方の幹とも樹勢盛んで、大きく広がった枝に葉が豊かに茂った姿に圧倒されます。クスノキは樟脳(しょうのう)の原料になり、薬用やスパイス(香辛料)に用いられる肉桂(にっけい、菓子などではシナモンという)と近縁な植物です。
長久元年(1040)9月、阿蘇神社の分霊をこの地に勧請したとき、その神霊を奉じた船を繋いだということで「船繋ぎの樟」の名もあります。また、そのときに急に秋雨が降り出して完成したばかりの社殿を洗い清めたと伝えられています。阿蘇神社の存在と由緒を詳しく伝える伝承があることは、当時この地まで阿蘇氏の勢力が及んでいたことを示すものです。
現在この地に立って周囲を見回しても、ここに船を繋いだとは信じられません。しかし、現在目の前に広がる田畑が昔はすべて海で、近世の干拓によって開かれ、宿場町として発展してきたことを考え、周囲をもう一度見回すと一面の青い海の近くに神社がある昔の地形が見えてきます。
また、この樹にはもう一つ有名な伝説があります。慶長元年(1596)加藤清正が熊本城築城のときにこの樹を伐ろうとしたところ、突如として白蛇が現れ首を横に振ったという言い伝えや、二頭の雄と雌の咬龍が現れて雲煙を吐いてこの樹を守ったという伝説が残っています。そう思いをめぐらすと、二本の大きな幹が龍のようにも見えてきます。小川阿蘇神社は、仏教神で龍王と呼ばれる金比羅様を祀る社が境内にあるなど、龍神とは関係の深い神社でもあります。
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