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  老樹名木詳細
 
赤瀬のお葉付き銀杏(あかせのおはつきいちょう)


■九州で唯一のオハツキイチョウ
 国道57号から、有明海とは反対の山手の方に上ると高台に「赤瀬の観音堂」があり、その境内には3株の大きなイチョウがあります。その内で一番奥にある最大株が、赤瀬のオハツキイチョウです。オハツキイチョウとは、イチョウの実(正確にいえば種子)に葉が付いたものを、普通のイチョウと区別してついた名前ですが、正確にいえば葉に花が咲いてそれが実になったもので、実に葉が付いたものではありません。
 幹は観音堂の方に傾いており、主幹から大きく枝分かれしているので、樹形は整然とはしていません。以前、シロアリ駆除のため地上1.5メートルのところに薬剤を注入するための穴を開けましたが、年々樹皮によって狭められて小さくなってきています。そのことから分かるように、樹勢は盛んで葉も豊かに茂っています。
 国の天然記念物に指定されたオハツキイチョウは全国に7株あり、その中で最大の巨樹は茨城県の水戸市にある「白旗山(しらはたやま)八幡宮のオハツキイチョウ」で、幹囲は7メートル、樹高は35メートルもあります。九州ではここのほかに宮崎市に平成5年までありましたが台風で折れてしまい、今では「赤瀬のオハツキイチョウ」が九州で唯一のオハツキイチョウということになります。
 このオハツキイチョウには、高さ3メートルくらいのところに30~40センチメートルの気根が10個ほどあります。ほかのイチョウの巨樹に見られるような長い気根ではありません。地域の人々はこれを「乳」と呼び、「乳の神さま」として崇めてきました。母乳の出ない人が、この気根の皮を煎じて飲むと乳の出が良くなるという言い伝えがあります。また、寛政4年(1792)5月21日の雲仙岳の爆発と眉山の崩壊によって起こった津波のときに、この樹に登って難を逃れたとか、この樹に登って避難した人も流されたとかという言い伝えもあります。約200年前に避難したということは、そのころ既に頼りになるほどの高さの大木であったことと、津波は相当な高さまで押し寄せてきたことがうかがい知れます。
 このオハツキイチョウから国道57号を少し行った所に、その昔この地を訪れた景行天皇を魅了した伝説の浜辺があります。景行天皇が輿をとめてこの景色をご覧になったことから「御輿来(おこしき)海岸」と名が付きました。遠浅の干潟で、潮の干満の差が大きいのが有明海の特徴ですが、ここ御輿来海岸では、2キロメートルものはるかな沖合いまで広々と広がる干潟の上に、水と砂の大きな波文様が現われ、実に見事で、ほかには見られない絶景です。いい写真を撮るためには、潮の満ち引きの時刻と太陽の光の向きを計算して、行く日を決めた方がいいでしょう。

■オハツキイチョウについて考える
 イチョウは独特の葉の形と黄金色に黄葉する美しさや、茶碗蒸しに入れる銀杏(ぎんなん)の実などの話題で多くの人が馴染み深く見ている樹です。しかし、どんな花がいつ咲くか、気がつかずにいることが多いようです。
 イチョウには葉がかたまって付く短枝(たんし)という枝があり、春4月に葉が芽生えて展開するころ、短枝の上に葉と同じような付き方で花を咲かせます。ただ、イチョウは雌雄異株(しゆういしゅ)なので、雌の木には雌花が咲き、雄の木には雄花が咲いて、両方の花が同じ株に咲くことはありません。雌花は2~3センチメートルの柄の先端に、後で種子になる胚珠(はいしゅ)が普通は二つ付いていますが、高いところに咲くので見つけにくい花です。雄花はふさふさした長さ2センチメートル、幅6ミリメートルほどの尾状で、花粉を飛ばした後は落ちて雄株の下に散り敷きます。
 同じような場所から芽が出ても、花芽と葉芽は全く別のものです。しかし、葉の先端が雌花に変化してそこに雄花の花粉がつくと、葉の先端に種子がついた「お葉付き」の形になります。葉と花の性質が同居した一種の奇形ですから、一つの葉に種子が1個ではなく2個のものもあり、多いものでは3~5個付くものもあります。また、種子の形も正常なもののように球形ではなく、楕円状で少し小さいのも特徴です。「お葉付き」は一種の奇形ですが、葉が変化して花になってきた進化の歴史を考えると、先祖帰りの貴重な証拠になるものです。
 オハツキイチョウの雌株といっても、実の全部が「お葉付き」になるのではありません。また、その年の気候条件などで「お葉付き」になる数も増減します。しかし、ここ赤瀬の樹で、一回で415個の「お葉付き」を拾った記録もありますから、9月下旬~10月下旬に観音堂に参拝し、落ちている実の中を丹念に探せば見つかる可能性があります。
 そこで理屈を一つ考えて、この現象が雌株ではなくて雄株に起きたらどうなるでしょう。雄株ですから花粉を飛ばすまでの仕事はしますが、雌株のような「お葉付き」の形にはならず、雄花が付いていた奇形の葉が残るだけです。しかし、葉の先端が花になったことは同じですから、その木はオハツキイチョウの雄株ということになり、国指定の天然記念物になっている雄株が山梨県にあります。


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