■地域の人々に愛され慕われる大樹
カヤは常緑高木で、葉は長さ2~3㎝幅2~3㎜の扁平な線形、枝の両側にきれいに2列に並びます。表面は光沢のある美しい濃緑色で、先端は鋭く尖っていて触ると痛いので、その特徴を確かめると、他と確実に区別できます。真っ直ぐに伸びて高くそびえる樹形が特徴で、庭園にも植栽されます。ところが、ここのカヤの幹にはキヅタという蔓植物(園芸店でアイビーといって販売されているものの仲間)が巻き付き、その茎が大蛇のように何本も重なりあって巻き上がり、カヤの幹や大枝の上に葉を茂らせているので、まるで別の樹のような印象を受けます。
しかし、近寄って注意して観察すると、上の方にはカヤの特徴的な樹形と葉が認められ、それに巻き付いているキヅタとの関係が次第に見えてきます。それにしても、カヤとキヅタの両者が広げた枝と豊かに茂る葉の存在感は圧倒的で、夏の強い日差しを遮って涼しげな緑陰を作りだしています。
庚申塔とは、庚申信仰を具体的に表現したもので、悪鬼や病魔を払い除くため村の入り口に立てられます。庚申信仰は平安時代に中国から伝来したといわれ、干支(えと)の庚申(かのえさる)の日の夜に、「身を慎んで徹夜すると長生きできる」という信仰です。これは人の体内にいる三尸(さんし)という虫が、庚申の日の夜に当人が睡眠中に体から抜け出して人間の寿命を司る天帝に日頃の罪過を報告するので、それをさせないためにみんなで集まって夜明かしをするのだといわれます。庚申信仰の本尊は、仏家では帝釈天および青面金剛を、神道では猿田彦を祭ることが多く、阿蘇地方の村の入り口や道の辻には「猿田彦大神」の塔が立ち、魔よけと道標の役目を果たしています。
古い道が樹をよけるようにカーブしているところを突っ切るようにまっすぐに新しい道が通ったので、二つの道の間に挟まれた空き地にあるこの樹は、まるで道路の真ん中に立っているように見えます。車に乗ったまますぐ近くまで行け、車内から眺められますが、車を降りて手を触れるように観察してください。
この樹は歯の神様として古くから慕われ、樹の周りを地域の人たちがわが庭のように大事にしています。樹の根元もいつもきちんと掃除が行き届いて、樹を見に行くと近所の方が喜んで話しかけてこられます。
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