■南国情緒漂う個性豊かな樹
アコウは、クワ科の常緑高木でイチヂクの仲間です。イチヂクは「無花果」と書くように、花らしい花がなく、最初から実のような丸い花軸が付いています。初夏になると、花軸が大きくなった袋状の花嚢(かのう)の内面に無数の雄花や雌花を付けます。その花が受粉して花のときより花嚢が少し大きくなって熟します。果実を半分に切ると赤いつぶつぶがたくさんつまっています。その一つ一つが実で、果肉と思われている部分は花托(かたく)です。実と花托が一緒になって独特の食感を出しています。アコウもイチヂクと同様の構造で、イチヂクより小さい花嚢を付けます。
アコウは、中国南部や台湾にも見られる南方系の樹木で、熊本では天草から宇土半島辺りにまで分布します。エキゾチックな樹形で、熊本辺りに生える樹とは全く違う雰囲気を持っています。
海岸近くに生え、海水をあびても強い風に吹かれても耐えることができる強い樹なので、海辺の村の防風、防潮の役目を果たす木として集落ごとに大事にされ、南国の海岸の独特な景観をつくってきました。
幹や枝から空気中に伸びる大きな気根が特徴です。その気根がだんだん育って何本も垂れ下がったり、太くなって幹に巻きついたり、大きく育って何本も柱を立てたように伸びたりして、妖気漂う樹形をつくります。
「対岳楼跡の雀榕」は、「遠景の雲仙、近景のアコウ」といわれ、人が集まる場の景色をつくる樹として大事にされたのです。
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