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  老樹名木詳細
 
1上十町権現の石櫧(かみじっちょうごんげんのいちいがし)


■鎮守の森の大樹
 福岡県との県境に近い猿懸(さるかけ、猿掛とも書く)の集落に接する小高い丘にあるイチイガシです。猿懸峠を越えて福岡県に入る県道(玉名立花線)から眺めても、林の中から1本だけすーっと突き抜けてそびえ、上の方に大きく枝を広げた独特の姿で立っているのがわかります。周囲から見てよく目立つ樹で、村のシンボルにも目印にもなっているだけでなく、地域の誇りでもあります。
 県道から集落に入り、人家の横の古びた石段の参道を登っていくと社殿があります。熊野権現を祀る猿懸熊野座神社ですが、地元では地名の上十町をつけて「上十町権現」と呼び、その名が県の天然記念物指定の名称に使われています。イチイガシはその左手50メートルほどの、急斜面のスギ木立の中に立っているご神木です。
 幹囲8.5メートルの大きな幹が堂々と立ち、根本から数本の板根(ばんこん:板状に発達した根)が横に張り出して幹をしっかりと支えています。また、根本には大きな瘤が3個あり、主幹との隙間にはそこで芽生えた木が育っています。地上7メートルほどで幹が二又になったところに生えた木もあり、さらに幹にはツタが絡みノキシノブが着生しているなど賑やかなことです。イチイガシ自身も多数の枝を四方に広げ、その枝張りは東西南北にそれぞれ15~20メートル伸びています。
 大きく葉の茂った部分が他の木々より高く抜きん出て、いかにも風の影響を強く受けそうな樹形になっています。しかし、昔は社叢に大きなシイやカシが大きく茂っていたので、森の木々が互いに助け合ってイチイガシをこの大きさにまで育ててくれたのでしょう。ところが、第二次世界大戦が終わった後、空襲で焼けた国土復興に木材が不足し、将来のために資源を確保しようと次々に雑木の山を伐ってスギの植林が行われました。そのため、現在見るように周辺が低いスギやモウソウチクやマダケの林に囲まれた状態になりました。
 この樹が風で大きな傷害を受けたのは昭和10年ころに来襲した台風のときで、見事な大枝が吹き折られてしまったそうです。その後も台風は何回も襲来しましたが、枝が折れることはあっても、そのときのような大被害はないとのことです。ここが台風の被害を受けにくい地形なのか、この樹が風に強いからか、理由はわかりませんが有難いことです。林の中の地面には落ち葉が厚く堆積して日陰の草が密生し、この樹にとって住み心地の良さそうな環境になっています。
 このイチイガシは上十町権現のご神木として人々の崇敬を集め、毎年行われる祭礼もこの大きなご神木が見つめる下で行われます。また、根本の空洞には大黒様と恵比寿様がひっそりと祀られています。

■食用にもされたイチイガシ
 イチイガシは本州南部から四国や九州の温暖な山地に自生する常緑広葉樹で、大木になります。葉の表面は鮮やかな緑色ですが、裏面は灰黄白色で小枝とともに淡黄褐色の毛があり、そのことで他のカシ類と区別がつきます。カシ類は材質が堅く強靭で重く、弾性が高くて水湿に強く、きれいに割ることができる長所もあって、日本産の常緑カシ類の材は良質と世界的に高く評価されています。県内に産する常緑カシ類は8種ですが、樹種ごとの特性に応じていろいろな用途に使われています。とくにイチイガシの材は上記の特性に加えて、長材でも容易に割ることができるので舟の櫓(ろ)を作るのに最適で、櫓樫(ろがし)とも呼ばれるほどです。
 果実はいわゆる団栗(どんぐり)です。帽子をかぶった独特の形で子どもたちにも馴染みのものですが、イチイガシの実はやや大型で渋みがなく、シイに似て美味なので古い時代から食用にされてきました。県内では昭和62年(1987)年に宇土市の曽畑(そばた)貝塚からイチイガシの実(どんぐり)が大量に出土し、秋に拾い集めて1年中食べられるように貯えたのだろうと、古代の生活が大きな話題になりました。
 近くには、県指定天然記念物の樹齢800年の「山森阿蘇(やまもりあそ)神社の樟(くす)」、隣接する南関町には県指定天然記念物の樹齢500年の「大津山下ツ宮(おおつやましもつみや)の椋(むくのき)」、町指定天然記念物の樹齢300年の「石井家の彼岸桜」、町指定天然記念物の樹齢400年の「小原(こばる)の石櫧(いちいがし)」、町指定天然記念物の樹齢300年の「乙丸の黐(もちのき)」、町指定天然記念物の樹齢100年の「肥猪(こえい)の枝垂桜」があります。


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