静川の岸に沿って点在する樹木の中でもひときわ大きなケヤキの根元に、川面よりやや高い水位を保つ湧水池がある。往古より貴重な水源として大事にされてきた場所だ。祀られた小さな水神様には、くじ運の御利益を期待した参詣も多いという。その賽銭は水源一帯の景観を守る費用にもあてられ、地域の人たちは日々の清掃や洪水時に溜まる土砂の処理に労を惜しまない。ケヤキの幹は空洞になっていて、傍らの説明板は穴をくぐって中に入ることを勧めている。巨木に対する畏敬を欠くと見る向きもあろうが、ともかくも、このような大らかさの中で、大木と湧水と人とが共に生き続けてきた。ケヤキ水源の優れた景観は大木の存在に負うところが大きいが、万一この老樹の寿命が尽きたとしても、この場所は、それなりの形で快い景観を提供し続けるのではないだろうか。そんな思いを抱いてしまうのは、そこに潜む歴史と地域力の大きさのせいに違いない。
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