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室町期に温泉が発見され、江戸時代に薩摩街道が整備された日奈久は、海と山に挟まれ、迷路のような町並みの中に木造の旅館や蔵が残り、長く県民に親しまれてきた温泉街である。この建物はその一角にあり、狭い道路に面する西正面は3つの異なる表情を持つ。北から、錆色の土と炭化した木材で作られ小屋根のついた板塀があり、庭を挟んで3層の白い建物が聳える。中ほどはコの字型の奥まった所に屋根つきの門があり、玄関、大階段、その先にある桃山式庭園が窺える。南は建物自体が通りに接しているが、持ち送りで張り出した軒は町並みにやさしい影を落としている。それでいて全体として調和が取れ、かつての温泉街の賑わいを髣髴とさせる。新たな町並みづくりの核となる重要な建物として評価された。 |