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  老樹名木詳細
 
田浦阿蘇神社の樫(たのうらあそじんじゃのかし)


■田浦阿蘇神社のカシの樹
 芦北町(あしきたまち)田浦(たのうら)の集落の真ん中に、郷社としては肥後十社に数えられる田浦阿蘇神社があります。田浦は旧田浦町の中心であった古い集落で、球磨川から肥薩国境までの芦北地域で、堅固な城のあった佐敷(さしき)に次ぐ第二の集落でした。藩政時代には田浦手永(てなが:細川藩の行政区画で郡と村の中間)の中心として総庄屋が置かれ、田浦の集落は神社を中心に発展してきました。
 神社の楼門を入って右手に小川が流れ、境内の少し高い場所にアラカシの大樹があります。太い幹は根元近くで大きく二つに分かれ、根元には大きな空洞があります。平成16年(2004)の台風で主幹が地上4メートルのところで折れたため、現在の樹高は10メートルほどですが、樹勢良く、枝葉を茂らせています。樹肌はごつごつして老樹の風格があります。昔から境内には子どもたちが集まり、この空洞は今でも子どもたちが隠れたりするのに絶好の遊び場です。

■薪にされた地味なアラカシ
 アラカシは日本列島では福島県以西・四国・九州の暖地に自生し、関西で「かし」といえばアラカシを指すほど極めて普通なカシ類です。アラカシの「あら」は粗の意で、枝が粗強・葉が粗大で硬質だからといわれています。「かし」の語源は分かりませんが、普通「樫」と書きます。これはカシ類の材が堅いので「かたぎ」(堅木)と呼ぶのを、そのまま木編に堅を組み合わせた国字(日本人が作った字)で、漢字(中国から渡来した字)ではありません。
 アラカシは樹勢強健で乾燥地や痩せ地でも生育でき、生育が早くて萌芽力も強く、刈り込みに耐えるので庭園樹として広く使われています。植木市などで棒樫(ぼうがし)というのは、棒のように一本立ちに仕立てたアラカシの苗木です。単木で育てれば広楕円形の良い樹形に育ちますし、列植や群植して防風や防音などの遮断植栽としても有効です。身近な山に当たり前に生えている地味な木で、薪にするために頻繁に切られ、それでも根元から元気良く芽を出して再生してきた木です。そのため、尊敬されたり大切にされたりすることの少ない木です。また、材も手近に入手できる材料として諸用に供されましたから、使いたいときに勝手に使ってよい遠慮気兼ねの要らない木と考えられてきたのでしょう。

■大切にされ、300年を生きる老樹
 田浦阿蘇神社は室町時代に、この地域の豪族田浦氏(後の総庄屋)によって建立されたと伝えられていますが、社殿が寛永18年(1641)に焼失したので詳しい記録は失われて不明です。現在の神殿は天明元年(1781)、拝殿は嘉永元年(1848)に再建されました。毎年11月18日が例祭で、伝承郷土芸能の宮之後(みやのうしろ)臼太鼓踊りが奉納され、餅投げが行われます。臼太鼓踊りは、その勇壮な音が雷に似ていることから雨乞いとしても踊られていました。また、昔はこの祭りの日に奉納相撲が行われ、地区の人たちはアラカシのそばの桟敷に座って観戦するなど大いに賑わっていました。そのアラカシは300年以上の樹齢を重ねた老樹となって存在しています。これは地域の人たちから大切にされてきたことと、病虫害にも侵されなかったなど環境条件に恵まれたことで、このように長生きすることができたのでしょうが、大変珍しいことです。

■全国に知られる甘夏みかんと田浦銀太刀
 このアラカシには、肥薩おれんじ鉄道の「たのうら御立岬(おたちみさき)公園駅」から歩いて15分ほどで着きます。途中には国登録文化財の「藤崎家住宅」があります。料理研究家の江上トミの生家として有名で、町道沿いの長塀などを見ることができます。肥薩おれんじ鉄道の佐敷駅近くには、国指定史跡になることが決まった佐敷城跡があります。戦国時代の終わりから江戸時代にかけての芦北、水俣の拠点で、美しい不知火海(しらぬひかい)までを見渡せる高台にあります。また、湯浦(ゆのうら)駅近くの星野富弘美術館では静かなひとときを過ごせます。海沿いには芦北海浜総合公園があり、ニュ-ジーランド生まれのニューアトラクションスポーツのゾーブが人気です。
 田浦は丸田印(:まるたじるし)のトレードマークで全国に名を知られる甘夏みかんの産地で、質、量ともに「日本一の甘夏みかんの里」と呼ばれています。昭和24年、田浦の有志7人が海に面した温暖な気候と傾斜した地形を利用して育て始めた1本から、現在の甘夏王国・熊本が誕生したのです。最近では嗜好の変化にあわせて「デコポン」をブランド化し、甘夏みかんに代わる日本一の産地を目指しています。
 かんきつ類のほか、不知火海で獲れるタチウオは「田浦銀太刀」(たのうらぎんだち)のブランド名で出荷されています。コリコリした歯応えの刺身や、ふっくらした食感の塩焼きはおかずにも酒のさかなにも最高です。「道の駅たのうら」では、田浦銀太刀の刺身や切身をはじめ、山盛りの太刀魚の天ぷらのほんのりとした甘さとタレのコンビネーションが絶品の太刀魚丼が評判です。
 また、「白いドレスの海の貴婦人」と呼ばれる打たせ船(うたせぶね)は、不知火海のシンボルです。青くきらめく穏やかな美しい海に真白い帆を一杯にふくらませて、風の力だけでゆっくりと力強く進む伝統の底引き網漁の船です。自然に逆らわない暮らしを感じさせる風景です。


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