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  老樹名木詳細
 
山本神社の竹柏(やまもとじんじゃのなぎ)


■神社に多く植えられていたナギの樹
 山本神社は熊野権現系統の神社で、創建の時代は明らかではありませんが、棟札(むなふだ)に天正元年(1573)に建てられたと記された社殿は村の有形文化財に指定されています。道路沿いに立つ鳥居をくぐり、石段を5、6段登って境内に入り、社殿を右に回り込んだ後ろに、主幹から枝を張り出して大きく茂ったナギの巨樹が力強く立っています。生気あふれる樹で、社殿よりも一段高いところにあるため、いっそう大きく見えます。
 ナギは、平安の歌人藤原定家が「ちはやふる熊野の宮のなぎの葉を かはらぬ千代のためしにぞ引く」と詠んでいるように、熊野権現のご神木とされる木で、全国の権現社に植えられています。
 別名を「ちからしば」といいますが、それは竹の葉のように葉脈が平行に走っているので、葉の先端と茎部を持って力いっぱい引っ張っても切断が困難だからです。そのため、男女の縁切れを防ぐまじないとして、「なぎの葉を帯にはさみて安堵顔」という句のように、帯や財布に入れるなどして身につける風習もありました。
 ここのナギは樹齢600年と推定されていますから、文化財の社殿建立よりも前からここに生育していたことになります。ナギが熊野権現のご神木として大切にされるのは、常緑で樹形や枝葉の姿が良いなどのほかに、海上交通の安全のために嵐を避け凪(なぎ)を祈ることと関係があるという説もあります。
 ナギはマキ科の暖地性の常緑高木で、本州西部から沖縄にかけて分布しますが、熊本県内では明らかな自生と確認されたものはありません。神社や寺院に古くから植えられ、公園や学校などにも植栽されるので、鳥などに種子が運ばれて芽生えた株を自然の中で見ることがあります。ナギは雌雄異株ですが、山本神社の樹は雌株で初夏に黄白色の花が咲き、丸い果実は10月頃に藍紫色に熟して目立ちます。幹は灰褐色ですが、老樹になると樹皮が薄片となって剥げ落ちるので、その痕が暗紅黄色のまだら模様になり、積み重ねられた年輪の風格を感じます。
 近くには、川辺川を少し下った柳瀬の井上家にも立派なナギの樹があります。また、五木方面に国道445号を登るとすぐに、雨乞いの神様として知られる雨宮神社の森が見下ろせます。清流川辺川沿いの豊かな田園の中に盛り上がった小山にこんもりと茂った森で、森全体が神域で山頂に神社があります。そこには、老樹名木と呼ぶには少し若いとはいえ、すらりと伸びたコウヤマキもあります。しかし、何と言っても印象的なのは、この森全体が映画「となりのトトロ」に出てくるような情緒溢れる姿であることで、最近は「トトロの森」と呼ぶ人が増えています。周辺の川と緑の田園風景の美しさはため息を誘います。この森の植生は代表的な照葉樹林で、県の緑地環境保全地域であり、ふるさと熊本の樹木にも指定されています。


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