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  老樹名木詳細
 
葉山さんの小賀玉木(おにきざきのあこう)


■木から落ちても怪我をしない伝説の木
 大津町外牧の集落を東に抜けて坂を少し登った右側に、外牧阿蘇神社があります。この神社は阿蘇一の宮を祀っているので地元では「一の宮さん」とも呼ばれています。寛文11年(1671)に創建され、祭神は建磐竜命(たていわたつのみこと)です。中世には神社の境内を中心に、葉山城があったといわれ、城跡に関する言い伝えが残っています。
 この神社の境内に堂々と立っている大きなオガタマノキなのに、地区の人たちは「外牧阿蘇神社の小賀玉木」と言わずに「葉山さんの小賀玉木」と呼びます。葉山城跡に祀った山の神様も含めて、城跡を「葉山さん」と呼び、その場所に生えている木だから「葉山さんの小賀玉木」と言ってきたのでしょう。
 この神社の石垣の高さは10メートルほどもあり、オガタマノキは県道瀬田熊本線を覆うように大きく枝を広げています。石段を登って樹に近づいて見ると、根が大きく広がって石垣の石をも掴むように張り巡らされ、大きな樹幹と広く展開したたくさんの枝をしっかりと支えています。
 この樹に登って落ちることがあっても、「今まで怪我をした人はいない」と伝えられている実に不思議な樹です。石垣の縁から下を覗いて見ると恐怖さえ感じる高さがあります。その上に高く伸び、大きく張り出した枝から落ちたら絶対に怪我をすると思わざるを得ない高さです。しかし、怪我をしないというのはなぜかと考えながら樹の根元を回り、幹の周囲や枝の張り方を注意して見ているうちに、石垣の外に張り出した枝の方には簡単には登れないこと、無理に行こうとしても手がかりがなく下を見たら恐ろしくなって進めないだろうと気付いたのです。自分の臆病な気持ちに屁理屈をつけたような気もしますが、ここでは臆病な用心する気持ちが大切で、それが怪我を防いでいるのだと思いました。

■香り高い小さな白い花
モクレンを思わせる小さな花
 オガタマノキは関東南部から東海、近畿南部、中国、四国、九州の暖地に自生し、沖縄や台湾にも分布する常緑広葉樹です。社寺に植栽されていることが多く、大樹に育って密に枝を茂らせているのを見かけます。全体的に樹形が整い、光沢のある常緑の葉と香り高い花、それに樹皮や葉にも香りがあって気品のある樹です。2~3月に短い柄のある3センチほどの白色花を咲かせますが、中央に立つ雌しべの集合体の周囲に多数の雄しべがあって、小さいけれどもモクレンの仲間の花だとわかる形をしています。それが10月~11月に5~10センチの集合果になります。その果実が熟して裂開すると、一つ一つの果実の中に糸でぶら下がった種子が2~3個入っていて、神楽を舞うとき振る鈴を思わせる形をしています。
 オガタマノキに近縁のトウオガタマ(カラタネオガタマ)は中国原産で、我が国には明治時代の初期に渡来して庭園などに植えられました。よく似た花を咲かせますが、花期は少し遅く4~6月で強いバナナの香りがするのが特徴です。高さが3~5メートルで株立ち状になることもオガタマノキとは異なる点です。多く見かける木ではありませんが、花の香りが強く印象に残って話題にされる木です。  

■天岩戸(あまのいわと)神話に登場するオガタマノキ
 オガタマノキの「おがたま」は招霊(おきたま)が訛ったもので、神霊を招く木という意味で神社などに古くから植栽もされました。神社などでは各種行事における神事などで神前に榊(さかき)を捧げますが、そこで普通に使われるのは植物分類学でもサカキというツバキ科の常緑樹です。また、同じツバキ科ですが葉も枝もやや小さいヒサカキ(姫榊の意)も、家庭の神棚に上げたりして使われます。オガタマノキはサカキやヒサカキのように広く使われてはいませんが、天岩戸(あまのいわと)の神話に登場する榊はオガタマノキだという説があります。
 神代の話ですが、天照大神(あまてらすおおみかみ)が弟の須佐之男命(すさのをのみこと)の悪行に怒って天岩屋(あまのいわや)に籠(こ)もられました。天も地も真っ暗闇になってしまったので、八百万(やおよろず)の神々は天安河原(あまのやすがわら)に集まり相談して、天岩屋の前に榊を立て鏡やたくさんの勾玉(まがだま)を飾りました。そして、天岩戸(あまのいわと)の前に伏せて置いた桶の上で天鈿女命(あめのうずめのみこと)が足踏みの音を響かせて神懸かりして踊りました。それを見て神々が喜んで大声をあげたのを聞いた天照大神が、何事が起きたのかと岩戸を少し開け質問に一歩出られたときに、天手力男命(あまのたちからをのみこと)がお手をとって外に引き出し、天も地も照り輝いて明るい光に包まれました。これが天岩戸の神話ですが、そのときに使った榊が、神楽の鈴の形をした実がなり、それを振れば鈴のように鳴るオガタマノキだといわれるのです。
 また、皇紀二千六百年(昭和15年:1940)の記念に学校の奉安殿(天皇陛下のご真影を奉安した小さい建物)前に植栽することも各地で行われたので、学校でも思いがけず大きなオガタマノキを見ることがあります。

■美しいミカドアゲハをはぐくむ木
縁の色が美しいミカドアゲハ
 オガタマノキは優美なミカドアゲハの食樹(食草ともいい、蝶が幼虫時代に食べる植物)として知られています。ミカドアゲハは、明治19年(1886)にイギリスの蝶研究家H.リーチが鹿児島で採集して世界に紹介したアゲハチョウです。優美な蝶として有名ですが、漢字で書けば帝揚羽の意味ですから、最高に立派な名前がついた蝶といえます。
 我が国でも九州・四国と近畿南部・東海の一部にだけ分布し、高知市のミカドアゲハおよびその生息地は国の特別天然記念物に指定され保護されています。熊本県では食樹のオガタマノキとタイサンボクが各地に自生または植栽されているので、その樹の近くを注意して探すと、飛んでいる美しい姿を見ることができます。


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